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アートサロン「19世紀の画家という職業・後編」ご報告 2015年4月18日

5月 5th, 2015
アートサロン「19世紀の画家という職業・後編」ご報告 2015年4月18日 はコメントを受け付けていません

今回は後編。アカデミズム絵画が忽然と消えてしまったその訳は? まずはアカデミズムのシステムについてのおさらい。 1665年にルイ14世がAcadémie Royale(アカデミー・ロワイヤル:王立アカデミー)を創設。デッサン力を最重要視した教育の中で、Prix de Rome(ローマ賞)というコンクールも作られました。これは1968年まで続きますが、この賞に輝いた画家の中で後世まで名をはせたのはIngres(アングル)だけ。フランス革命後も、ナポレオンによってAcadémie des Beaux Arts (アカデミー・デ・ボ・ザール)が設立され、このアカデミズムのシステムは継承されていきます。アカデミズム芸術では高度なデッサン力と構図力でギリシャ・ローマ風の美が追及されました。ナポレオンの時代には、政治的なプロパガンダのツールとしても利用されましたが。パトロンの発注によって絵を描いていた画家たちは、描く絵画によって階層分けされていきます。「売れっ子画家」になるための門戸も依然として狭いものでした。 1-1850-Prix de Rome-Bouguereau-Zenobia_Found_by_Shepherds_on_the_Banks_of_the_Araxes William Bouguereau :Zénobie retrouvée par les bergers sur les bords de l’Araxe , 1850 (Prix de Rome で一位を獲得した作品。あらゆる線が内側にうなだれたカーブを描いて悲しみを強調。杖の曲線もそのひとつ。)

そんな美術界に変化をもたらしたのはインクとリトグラフ(石版印刷)の出現です。印刷技術の発達のおかげで、当時台頭してきたブルジョワジーたちが絵画市場の一大顧客となっていきます。キャンバスやチューブ入りの絵の具も出回るようになると、製作される絵画の数も膨大になりました。 13 A-Litho (リトグラフの出現:大量の印刷が可能になり、一般市民にも手が届くようになる。)

レンタル絵画というのもこの時期に出現しています。かつての王侯貴族にかわって、ブルジョワや一般市民が買い手となったこの時期から画商が現れます。同時に批評家という職業も生まれます。彼らは展覧会などを多く開き、新しい視点から人々に絵画を紹介するようになりました。アンチ・アカデミズムの作品がもてはやされ始めます。今や画商や批評家の後ろ盾がなければ有名にはなれないという新しいシステムの前に、古典的なアカデミズムは次第に忘れ去られていきました。アカデミズムの多くの作品はアメリカへと渡って行き、かろうじて消滅の危機を逃れています。美術館からも美術書からも姿を消してしまったアカデミズムの絵画たちですが、その絵画の高い完成度や美しさを目にする機会に恵まれた今回のアートサロンで、アカデミズム絵画がまた見直される日があるかもしれないという思いを強くいたしました。この後は皆様にもサロンの時と同じようにアカデミズムの絵画をじっくり味わっていただきたいと思います。残念ながらここに載せられる数はほんのごく一部になってしまいますが、どうぞお楽しみください。アカデミズム絵画をみるとき知っておきたいのがジャンルの階層です。 絵画のジャンルのヒエラルキー: 絵画のテーマによって階級分けされていました。 1)歴史をテーマにした絵画:中でもAllégorique ―寓意的なテーマが最上位。その下に歴史、戦争などのテーマが並ぶ。 2)肖像画 3)風景画:その中でも海をテーマにしたものは格が上になる 4)動物画 5)静物画

 

1-1881-L'Aube

William Bouguereau :   L’aube , 1881 (夜明けの光を表す女性の優美なポーズ: 寓意画)

2-1882-Humeur nocturne

William Bouguereau : Humeur nocturne,  1882 (こちらは夜の闇をまとった女性像。ドガはこのブグローの絵画からbouguereauterという動詞を作った。「ブグローのような冷たい絵画を描く」という意味:寓意画)

16-Couture

Thomas Couture : Décadence de Rome , 1847 (典型的な triangle académique。三角形の構図はアカデミズム絵画の特徴。中央の彫像を頂点として左右対称の構図になっている。群像の頂点へと向かう曲線、直線にも注目:歴史画)

 

4-1863-Cabanel-Naissance de Venus

Alexandre Cabanel: La naissance de Vénus, 1863 (この絵はナポレオン3世によって買い上げられた。)

 

5-1865-Cabanel-Napo III

Alexandre Cabanel : Portrait de Napoléon Ⅲ, 1865 (同画家によるナポレオン3世の肖像画。)

 

5-1894- Rochegrosse-ChevalierFleurs

Jeorges-Antoine Rochegrosse :  Le chevalier aux fleurs, 1894 (ダニエルお気に入りの一枚。騎士の鎧の胸に風景が映っているのもおもしろい。)

 

1-1859-Troyon

Constant Troyon :  En route pour le marché , 1859 (戸外の光と羊を連れて市場へと赴く農民の姿。テーマは日常生活へと移っていく。)

 

2-1864-Tissot-Japonaise

James Tissot :  Japonaise au bain, 1864 (どうみても日本人ではないが、日本のものと思われる(?)品々に囲まれた女性像。後の印象派画家たちに与えた浮世絵の影響がここでも垣間見える。)

 

 

P4181541  conference

アートサロン, カルチャー講座, フランス語

アートサロン<19世紀の画家という職業>講座ご報告(2015年2月28日)

3月 2nd, 2015
アートサロン<19世紀の画家という職業>講座ご報告(2015年2月28日) はコメントを受け付けていません

今回の講座は2回に分けて行われます。今日は前編。印象派が現れるまで全盛を誇った「アカデミズム」について、いろいろな絵を見ながら説明してもらいます。後編ではその「アカデミズム」がフッツリと姿を消してしまったわけを解き明かしていきます。結末が気になるのはまるでミステリー小説を読むようです。

本日の内容についてザックリとではありますが、以下にまとめてみます。

・17世紀まで、各地方ごとにcorporationという同業組合(一種のギルド)が存在していました。どんな職業でもこのcorporationに加入しなければ、修行も商売もできない仕組みでした。例えば絵画についてもその売り買いはcorporationの権限で行われていて、画家たちの地位は職人並みのものでした。新参のアーティストたちにはなかなか門戸が開かれないという弊害も起こりました。

・ところが次第に王たちがイタリアから画家を招へいしたり、フランスの画家がイタリアへ移っていくようになると、(イタリアには当時修行の場が広く開かれていたようです。)画家たちの間に競争が始まりました。

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Nicolas Poussin  Le massacre des innocents (1625-1629) Musee Conde

ルイ14世の時代、1648年にAcadémie Royale(王立アカデミー)が創立されると画家たちの地位向上は決定的なものになりました。いかに絵画を美しく描くかを追求するアカデミーの指導のもと、コンクールも行われ、画家たちの権威は高まっていきます。

・フランス革命後、この王立アカデミーは姿を消し、その代りにナポレオンによってAcadémie des Beaux Arts(美術アカデミー)が創設されます。ここでの作品は主にナポレオンの政治プロパガンダの役割を担わされていたようです。彼の「お気に入り」だったDavid はナポレオンの作品を多く残しています。

 

napoleon[1] Jacques-Louis David  le sacre de Napoleon (1804)  Musee du Louvre

さてダニエルの話の中でおもしろかったことをいくつかピックアップいたします。

■ アカデミズムの画法では「醜いものは描かない」。風景の中に姿の悪い木があれば、絵画の中では抹殺する。Beauté absolue(絶対的美)を追求するのだから、人物は実物に似ていることよりギリシャローマ時代のような美しさを持たせることが重要。

■ 歴史画、宗教画を最高の絵画とした。

■ アカデミズム絵画では、浮世絵のように物を途中でカットして描かず、全体を描く。

■ デッサン重視のアカデミズム。裸体のモデルは男性のみ。従ってアカデミーに女性の学生は受け入れられなかった。女子学生専用にAcadémie Julianが1881年に創設された。しかしここでもデッサンモデルは少年。女性のモデルを使うようになるのは20世紀にはいってから。

■ Prix de Rome (ローマ賞1663~1968):芸術を専攻する学生に授与される政府奨学金制度。30歳未満の独身男性を対象に行われたコンクール。この賞に輝いた19世紀の画家のうち後世まで名を残したのはIngres(アングル)だけ。ドガやマネ、セザンヌたちはこのコンクールに入賞することができなかった。

■ ダニエルが在籍していたEcole des Beaux Arts(エコール・デ・ボ・ザール)の校舎の写真。建物全体が歴史的建造物。歴史的作品に囲まれた教室。重厚なドーム型天井。美しいアーチの連なる中庭…。見ているだけでため息が。でもダニエルには息の詰まる授業も多かったようですが…。是非こちらのリンクからその素晴らしさをご覧ください。

https://www.google.co.jp/search?q=ecole+des+beaux+arts&biw=1366&bih=641&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=0BzzVMraL4eMmwXy-YHgDw&ved=0CDwQsAQ&dpr=1

■ 19世紀の画家の収入:

パリに住む労働者階級の家庭(夫婦に子供が5人)の年間必要経費(食費、暖房、家賃)は平均で472,000円だったのに対して、画家の平均年収は2,520,000円。ナポレオン1世の統治時代に公費で注文作製された絵画には、ナポレオンを題材にした大作(5×3m)で4,030,000円、皇帝の馬の絵でも43,800円の値がつけられたそうです!
(1ユーロ=146円に換算)

このサロンに参加されたマダムMのブログにはもっとたくさんの画像つきでこのサロンの紹介が載っていますので是非そちらも訪問してみてください。

http://tuesgenial.exblog.jp/22849338/

 

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アートサロン, カルチャー講座, フランス語

アートサロン「フランス地方アート散策(2)」ご報告 2015年1月22日

1月 24th, 2015
アートサロン「フランス地方アート散策(2)」ご報告 2015年1月22日 はコメントを受け付けていません

P1220934 conference昨年11月に開かれるはずだったアートサロン「フランス地方アート散策・後編」は、ロランスの急病で延期となり、今年1月にやっと実現する運びとなりました。
前回の参加者の方の他新しい方も加わり、フランスの南半分の9つの地方から10点のアートを見ていきます。

日本のガイドブックにはあまり紹介されていないイベント、美術館など興味はつきません。フランス人でも知らないという人が結構いたくらい、「穴場」的なところばかりです。
詳細は前回(2014年2回開催)のスタッフブログでの報告と重複する箇所もあるかと思いますが、簡単にご紹介いたします。リンクも貼っておきますので、どうぞそちらもご覧になってみてください。ちなみに2014年11月にフランス議会で2016年を目処に現在の22地方を13に統合することが決まったそうです。これには特にアルザス地方の議員から猛反発があったそうですし、他の地方でも統合されることでその地方独自の文化が失われるのではないかと危惧している人たちもいるようです。とはいえ今後のフランスの地図が様変わりすることは必至のようです。

P1220936  galette des rois

プレゼンのあとはいつものようにテイータイム。今日はGalette des Rois(ガレット・デ・ロワ=王様のケーキ)をいただきます。パイ生地からすべてお手製。料理は好きじゃないというのに立派です。このお菓子、1月初めにいただく伝統的なもの。ケーキの中に陶器の小さな人形が仕込まれていて(昔はソラマメを使っていたそうですが)、この人形が入っているケーキを食べた人はその日の王様/女王様になれるということです。金の冠といっしょに菓子店でもこの時期店頭で売られています。ロランスの家では、子供の誰かがテーブルの下に入り、ママが切り分けたケーキを「それはパパに、それは弟に…」というように人形が入ったケーキが偶然誰かのお皿に配られるようにします。それで王様や女王様になった人にはどんないいことがあるのかと聞いたところ、「次の年はその人がガレットを作るのよ。」思ったより「イイこと」は起きないらしいです。ま、ケーキがおいしいからいいことにしましょうか。

 

P1220939  tasse de hermes(1)

P1220938  tasse de Hermes (2)

 

 

 

 

 

 

P1220940  tasse de Hermes(3)

 

 

テーブルの上のカップはすべてエルメス。いかにもエルメスらしい絵柄。

 

 

 

1)  Rhône-Alpes :ローヌアルプ地方
Palais idéal du Facteur Cheval : 郵便配達夫シュバル氏の「理想宮」

田舎の郵便配達夫だったシュバル氏が郵便配達中にたまたま躓いた石から、宮殿建設を思いつくという奇想天外な、しかし本当にあったお話。33年間、毎日郵便配達をしながら拾い集めた石でついには自宅の菜園に宮殿をたった一人で作り上げてしまいます。当時彼が配達していた異国の絵ハガキや雑誌からインスピレーションをえて建てられたこの国籍不明の宮殿、1969年には「素朴アート」の歴史的建造物と認定されることになりました。現在では毎年アーティストたちがここでシュバル氏のインスピレーションと粘り強い挑戦に敬意を表して作品発表を行っているそうです。

http://www.facteurcheval.com/

2)  Aubergne : オベルニュ地方
Horizons Arts Nature en Sancy : サンシーの自然ホライゾンアート

2007年から始まったプロジェクト。この地方の豊かな自然の中で現代アートを楽しめます。毎年世界中からアーティストの作品を公募して、彼らの作品を自然と融合させて設置しています。アートを見ながら自然の中を歩き回るという心にも体にもよさそうな場所です。

http://horizons-sancy.com/

3)  Limousin : リムザン地方
Centre d’art contemporain –Abbaye Saint André de Meynac :
現代アートセンター メナック サンタンドレ修道院

文化は田園にあっても日々の生活と密接にかかわっていなくてはいけない -というコンセプトから、僧院の一部を現代アートの展示場として開放しています。2014年には日本人の現代アート作家53人の作品展が開かれていました。

http://www.tourismelimousin.com/diffusio/en/what-to-see/museums-art-thematic-areas/meymac/abbaye-saint-andre-centre-d-art-contemporain_TFO155001830.php

4)  Poitou-Charentes :ポワトゥ・シャラント地方
Festival international de la bande dessinée d’Angoulême:アングレム漫画フェスティバル

毎年1月に開かれているフランスのみならず世界中の漫画が一同に集まる欧州最大規模の祭典。このフェスティバル、昨年は韓国の「慰安婦問題」に触れた漫画が展示され、日本がフランスに抗議するというニュースで、知名度がアップした感もありますが。
町の建物の壁面に漫画のキャラクターなどが描かれていて、町全体が常設漫画展のような趣きです。

http://www.bdangouleme.com/

5)  Aquitaine : アキテーヌ地方
Courrèges : クレージュ

この地方はブドウ栽培やエアバスなどの重工業でも有名ですが、デザイナーのクレージュもこの地方の出身者。もともとエンジニアの教育を受け、大戦中は空軍でパイロットの任務についていた彼はファッションとは全く無縁でした。しかし、戦後バレンシアガのアシスタントとなったことから彼の成功への道が始まりました。彼の発表した作品は何もかもが時代の最先端を走るものでした。幾何学的なデザインで有名ですが、ミニスカートも彼が最初に発表しました。パンタロンはイヴサンローランの作品というイメージがありますが、実はクレージュが最初に発表しています。彼のファッションへのこだわりは「女性の体を自由に解放すること」。体にフィットしたラインや真逆のゆったりとしたAラインなどは、「生活の動きに快適なライン」を追求した結果です。
彼の残した言葉です。「スタイルとモードは分けて考えなければならない。モードは変化する。しかしスタイルは時代の流れに影響されることがない。スタイルこそがそのパーソナリティーを表現しているからだ。」

http://www.vam.ac.uk/content/articles/a/andre-courreges/

6)  Midi-Pyrénées: ミディ・ピレネ地方
Viaduc de Millau : ミヨーの高架橋

深い谷に高速道路を作ろうという超人的な計画から建設された高架橋。美しい自然の中に鉄の大橋を建設するという計画に当初、地元の住民たちは大反対したそうですが、現在はこの高架橋のおかげでたくさんの観光客がやってくるようになったこともあり、この美しい橋の景観を誇りにしているようです。確かに雲海に浮かぶ橋は神秘的ですらあります。
http://www.bing.com/images/search?q=+viaduc+de+Millau&qpvt=+viaduc+de+Millau&FORM=IGRE

7)  Languedoc-Roussillon : ラングドック・ルシヨン地方
Art dans l’espace public : 1% artisitique : 公共スペースの1%アート

公共施設建設の場合、その費用の1%を現代アート作品に充て、その作品をその施設内に設置しなければならないという法律があるそうです。これは現代アートの振興をはかるとともに生活のなかにアートを取り入れるというのが目的です。さすが芸術の国、フランス。

http://www.laregion.fr/

8)  PACA-Corse : プロヴァンス・アルプ・コートダジュール地方コルシカ島
Château La Coste : シャトー・ラ・コスト

不動産で巨万の富を手にしたアイルランド人Patrick Mckillenがこのシャトーを買い取り、もともとあったブドウ園にアートと建築を結びつけたセンターを創設。建築にはPritzker賞(建築界のノーベル賞ともいわれる権威ある賞)に輝く5人の建築家、安藤忠雄、レンゾ・ピアノ、フランク・ゲリー、ジャン・ヌベル、ノーマン・フォスターに依頼。何とも豪華な顔ぶれですが、そこへアーティストも数多く招聘し、彼らに好きなように作品を作らせています。お大尽のやることはケタ違いです。緑の自然の中に現代建築とアートが散在する美しい場所。宣伝をほとんどしていないので観光客が押し寄せることもないというまさに「穴場」です。

http://www.via-selection.com/fr/galerie/galerie-photos/id-271-chateau-la-coste

9)  PACA: Fondation Maeght : マーグ財団美術館

マーグ夫妻が政府からの補助金を一切受けず、独立して自分たちだけで作り上げた美術館です。もともとコレクターであったマーグ氏ですが、最愛の息子の死に悲嘆にくれていた時に友人の画家ブラックに「その悲しみを乗り越えるために何か大きなことをやりましょう。あなたがやるなら、自分は絵筆をもってきて岩にだって絵を描きますよ。」と励まされたのが始まりだとか。収蔵作品は、1万点。ジャコメッティの彫刻が62点。ミロの彫刻が150点。シャガールの世界最大の作品も所蔵。何しろマーグ夫妻の友人というのがボナール、ブラック、シャガール、ジャコメッティ、レジェ、ミロ…と美術史の本をひっくり返したような豪華絢爛たる顔ぶれなのです。ヨーロッパ屈指の所蔵作品数というのも納得です。

http://www.bing.com/images/search?q=fondation+maeght&qpvt=fondation+maeght&FORM=IGRE

10)  Ile-de-France:イル・ド・フランス地方
Fondation de Louis-Vitton: ルイ・ヴィトン財団美術館

パリのブーローニュに2014年9月に開かれたばかりの新しい美術館。アメリカ人の建築家フランク・ゲリーの設計です。ちょっとルーブル美術館の中庭のピラミッドを思わせる全面ガラス張りの建物が、ブーローニュの森の中で異彩を放ちます。

http://www.lvmh.com/lvmh-patron-of-the-arts-and-social-solidarity/fondation-louis-vuitton

P1220946  gouter la galette des rois

アートサロン, フランス語

アートサロン: フランスを巡る – フランス地方のアート散策(1):講座ご報告(2014年10月16日)

10月 18th, 2014
アートサロン: フランスを巡る – フランス地方のアート散策(1):講座ご報告(2014年10月16日) はコメントを受け付けていません

 

前回好評だったフランス地方アート散策、今回は通訳付きで開催しました。当初は、前回2回に渡って紹介されたものを1回のダイジェスト版にまとめる予定でしたが、やはりどの地方アートも魅力的で割愛が忍びなく、今回も2回に分けてご紹介することになりました。

ガイドブックなどでは紹介されていない美術館、イベント、建築物など、2度目3度目のフランス旅行を考えている方なら必見です。大画面のディスプレイに流れるビデオなどを見ていると、まるでその地を旅しているような気分になります。フランスのアート文化の深さを思い知らされます。
今回紹介された地方とそのアートは最後にご報告をのせておきます。近々フランスへ旅行を計画されている方は是非参考になさってください。

プレゼンのあとはもちろんティータイム。プレゼンの前にロランスは言いました。「ちゃーんと聞いていた人にはご褒美に私の焼いたチョコレートケーキをあげるわよ。」

ティータイムのガトー・オ・ショコラ

ティータイムのガトー・オ・ショコラ

 

ティータイムのテーブルでは全員にケーキがふるまわれました。(よかった、よかった!!)お茶は前回もいただいた「マリー・アントワネット」の紅茶。パッケージがとてもかわいい。「貴婦人の城を見たあとだから、やっぱりマリー・アントワネットだわね。」とロランス。

マリー・アントワネットの紅茶

マリー・アントワネットの紅茶

 

テーブルの中央にはクリスタルのオーナメントが。星形のものは紹介のあったバカラ。ハート型はラリック。こっそりちゃんとテーブルの上にまで地方アートが並べられていました。お見事!!

バカラとラリックのオブジェ

バカラとラリックのオブジェ

 

– Alsace :  cité de l’Automobile ( collection Schlumpf )

アルザス地方:自動車都市 (シュランフ・コレクション)

*車に興味のない女性にもお勧め。古い繊維工場そのままのクラシックな内部と前衛的な建物正面のコントラストもおもしろい。

– Lorraine : Baccarat

ロレーヌ地方:バカラ

*さすが歴史あるクリスタルメーカー。MOF(Meilleur Ouvrier de France :優れた技術を持つ職人に与えられる称号)を持つ職人の数はフランス国内でもピカイチ。デザイナーとのコラボでは日本人、高田賢三や堀木エリ子なども起用された。伝統を守りながら、常に新しいものにチャレンジしている。近年はアクセサリーもてがけている。ただし、リングは壊れやすいのでお勧めではないとはロランスの体験談。

– Champagne-Ardenne : Maisons Champagne : Collaboration avec des artistes

シャンパーニュ・アルデンヌ地方:シャンパン:アーティストとのコラボ

*ドン・ペリニョン(Dom Perignon)は、なんとベネディクト会修道士の名前。彼がシャンパン技術をこの地方に伝え、修道院で金色に美しく泡立つ飲み物を作り出したのが始まり。秘訣は数種類のブドウを組み合わせて圧搾することだとか。

– Picardie : Cathédrale d’Amiens

ピカルディ地方アミアン大聖堂

*フランス最大規模のゴシック建築のカテドラル。ユネスコの世界遺産にも認定されている。必見は夏の夜、イリュミネーションに映し出される正面入り口のレリーフ。修復時にかつて多色装飾が施されていたことが判明。13世紀のカラフルだった彫刻群をデジタル映像を駆使して再現している。

– Nord-Pas de Calais: Musée de la piscine de Roubaix         

ノール・パドカレ地方ルベのプール美術館

*この地方に建てられた新ルーブル美術館よりお勧めとロランスが言うのは、かつてのプールの建物を改装したルベ美術館。プールを囲んで美術品が美しく並べられているだけでなく、シャワールームなどにも絵などが展示されているほか、陶器や家具、織物のコレクションなどが豊富。

– Normandie: Tapisserie de Bayeux

ノルマンディー地方バイユーのタペストリー

*全長70mのタペストリー。麻地に染色した毛糸で刺繍されている。テーマはノルマンディー公のイギリス征服の戦い。当時の人々の服装、道具、建物なども描かれており、中世を知る数少ない貴重な資料でもある。

– Bretagne: L’école de Pont-Aven

ブルターニュ地方ポンタヴァン派

*ポンタヴァンはブルターニュ地方の村。ベーコンをはじめアメリカ人の画家たちが夏を過ごしにやってきて、やがてゴーギャンもこの地で絵画の実験を始め、新境地を開く。原色を使い、遠近法を無視した幾何学的な構図に、輪郭の縁取り、ディテールの省略といった総合主義の始まり。この運動は20世紀のフォービズムに大きな影響を与えた。

– Pays de la Loire: Le voyage à Nantes

ペイ・ドゥ・ラ・ロワール地方:ナントの旅

*ナント市は1989年から「文化」を全面に押し出した。一年中、町のいたるところ10kmに渡って、常設・仮設のアートオブジェやパフォーマンスが楽しめる。町を歩いている間いつ、どこで何に出くわすかわからない。アートとの出会いがそこかしこに仕掛けられている。夏が最も賑わうらしい。

– Centre : Le Château des Dames

サントル地方:貴婦人たちの城

*小さな川の上に建つシュノンソー城。15世紀終わりから20世紀まで女性がいつも城主だったという、美しい城。しかし、その女性たち(アンリ2世の妻、カトリーヌ・ド・メディチや愛人のディアヌ・ド・ポワティエなど)の人生の悲喜こもごもを見続けてきた城。女主人たちの歴史と一緒に訪れてみたい。

Bourgogne: Tour de France de Mérimée- Abbaye de Cluny

ブルゴーニュ地方:メリメのフランス巡り - クリュニー修道院

*「カルメン」で有名なメリメは、歴史的建造物保護に乗り出した政府の命を受け、カメラを手にしてフランス中の調査に回った。彼のおかげでどれだけ多くの建物が救われたかしれない。この地方のクリュニー修道院もそのひとつ。909-910年に建てられたロマネスク様式の建物。

– Franche-Comté : Chapelle Notre Dame du Haut

フランシュ・コンテ地方:ノートルダム・デュオー礼拝堂

*1950-1955年にル・コルビュジエによって建てられた礼拝堂。当時としては余りに前衛的過ぎた景観は人々から「醜悪」という酷評を浴びた。しかし、自然と礼拝堂の佇まいの調和の美しさは徐々に認められていった。

 

サロンの中で使われた画像などは、当日参加された方のおひとりのブログにたくさん載っています。そちらも是非ご参照ください。P4240381

http://tuesgenial.exblog.jp/22482196/

 

 

 

 

 

アートサロン, カルチャー講座

アートサロン<Regarder la peinture autrement :違った視点で絵画を楽しむ 2>講座ご報告(2014年7月26日)

7月 29th, 2014
アートサロン<Regarder la peinture autrement :違った視点で絵画を楽しむ 2>講座ご報告(2014年7月26日) はコメントを受け付けていません

何しろ暑い!!東京も35度という寒暖計の水銀が吹き出そうな暑さが続く中、本日の参加者の皆様、顔を真っ赤にして、生も根も尽き果てたという様子でご到着。

本日のアートサロンも外気と変わらず白熱した内容に。前回と同様のテーマで、ダニエルが、いろいろな角度から絵の楽しみ方をレクチャーします。内容はほとんどの部分が6月7日のサロンのものと重複しますのでここでは省きますが、ダニエル語録を少々まとめてみました。

Luis Melendez Melon et poires 1770 Museum of Fine Arts (Boston, U.S.A.)

Luis Melendez
Melon et poires 1770
Museum of Fine Arts
(Boston, U.S.A.)

 

 遠くから絵画全体を眺めるのは「知的喜び」を呼び起こす。美術史知識や様式などの学識を必要とするから。 近くから絵画を眺めるのは「視覚の喜び」をもたらす。描かれている「もの」のディテール、テクスチャー、仕上がりなど、思わぬ発見もある。

★ 遠くから見ていい絵が、近くで見てかならずしもおもしろいとは限らない。じっくり近くで見たいと思う絵は、しっかりとしたテクニックで描かれている絵だ。

★ 人体描写は「できるだけ本物らしく」表現すること。人物の顔は「できるだけ似ているように」描くこと。人体はデフォルメしてもなお「人体」と 認められるが、顔は例えば鼻の長さを少し変えただけでも、本人と似なくなってしまう。

★ 肖像画の人物は本当に当人とそっくりに描かれているだろうか。例えば「モナリザ」は?私達には確証がない。しかし、そこに描かれた人 間性、個性は明らかに画家からのメッセージだ。

★ 絵の「タッチ」は、その画家のサインと言ってもいいほど重要だ。

絵画芸術 1666 美術史美術館 (ウィーン)所蔵

絵画芸術 1666
美術史美術館
(ウィーン)所蔵

 

などなど、実際の絵と比べながら話が進み、本当に興味のつきないすばらしい講座でした。たまたまサロンの翌日の新聞にフェルメールの「絵画芸術」についての記事が載っていたので読みましたら、「画家は直接キャンバスに絵を描き始めている。」という箇所がありました。ダニエルの講座では、その部分を拡大して見せてくれましたが、絵の具で描いている下には白い線が描かれていて、あきらかにデッサンをしてから描いているのです。フェルメールは下絵を描かず、直接絵の具で描く画家だったので、この絵の中の画家はフェルメールではないのではないか、とダニエルは考えているそうです。やはり「絵に近づいてよく見る」ことは大切なことだと実感いたします。ダニエルのように一つの絵の前で3時間もじっくり鑑賞するのはなかなか難しいですが、並んでいる作品はすべて見ようと人の流れに押されながら、慌ただしく絵の前を通り過ぎていた展覧会の自分を反省いたしました。

「今度の美術展ではかならず、これぞと思った絵の前では近くからじっくり見てみます。」「知らないことが多かったです。今日のような知識を持って絵を見たらきっともっとおもしろいですね。」と、参加者の方々も収穫があったようです。収穫といえば、ダニエルは講座が始まる前にお出しした麦茶が大変気に入ったようで、「これは何というお茶?いつもの日本茶とは違って、この味好きですねェ。えッ?ムギチャ?ああ、この漢字ですね。ウン、ウン、本当においしい!!」と絶賛していましたが、後日メールが届き、「帰りにスーパーで「麦茶」を買って帰りました。」とのことです。ダニエルにも収穫があってよかった!!

 

 

アートサロン, カルチャー講座

アートサロン:フランス地方のアート散策(2):講座ご報告(2014年6月12日)

6月 18th, 2014
アートサロン:フランス地方のアート散策(2):講座ご報告(2014年6月12日) はコメントを受け付けていません

P6120429  conference

4月のフランス地方アートサロンに続き今回はフランス南部とパリを散策します。

– Rhône-Alpes(ローヌ・アルプ地方)P6120436 Laurence
– Auvergne(オベルニュ地方)
– Limousin (リムザン地方)
– Poitou-Charentes(ポワトゥ・シャラント地方)
– Aquitaine(アキテーヌ地方)
– Midi-Pyrénées(ミディ・ピレネ地方)
– Languedoc-Roussillon(ラングドック・ルシヨン地方)
– Provence-Alpes-Côte d’Azur(プロヴァンス・アルプ・コートダジュール地方)
– Corse(コルス)
– Île-de-France(イール・ド・フランス地方)

以上でフランスのすべての地方を網羅しました。観光ガイドブックに載っていないような珍しいアート、建物だったり、イベントだったり、大変バラエティーに富んでいます。「芸術の都パリ」とよく言いますが、アートはパリだけのものではないこと、フランスのアートの底力を実感したサロンです。いくつか特に興味深いアートについて簡単にご紹介いたします。

P6120428  ecrin Rhone-Alpes

1)Rhône-Alpes(ローヌ・アルプ地方)

 Palais idéal du facteur Cheval :(郵便配達夫シュバル氏の理想宮殿)
http://www.facteurcheval.com/

ドローム県オートリブという小さな村にこの宮殿はあります。1879年のある日、シュバル氏はいつものように郵便を配達して回っていました。ところがその道中に不思議な形の石にけつまずいてしまいます。その石をつくづく眺めて、シュバル氏はこの石で宮殿を建てることを思いつきました。それからは毎日郵便配達をしながら、石を集め始めました。ポケットに…カゴに入れて…最後には手押し車で石を集めながら郵便配達の仕事を続けました。それらの石を使って、たった一人で、33年間もかけて、ついに高さ12m、全長26mの宮殿を完成させます。その外観はまるでインドネシアやカンボジアの神殿のような建築様式ですが、当時絵葉書が使われるようになって、外国へ旅行した人が送った葉書などの写真を、郵便配達夫だったシュバル氏は、時々目にすることがあったのでしょう。村人たちは彼を狂人扱いしていたようです。確かに狂気が生み出した宮殿です。けれど1969年には「歴史的建造物」に認定されました。何もない片田舎に忽然と現れる石の宮殿、ありきたりの旅行では飽き足らない向きにはお勧めかも…。

 2)Midi-Pyrénées(ミディ・ピレネ地方)

 Viaduc de Millau : (ミヨーの高架橋)
https://www.google.co.jp/search?q=viaduc+de+millau&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=6cCdU5eADYP98QXkwYKwDg&ved=0CBsQsAQ&biw=1366&bih=673

渓谷の霧の中に浮かぶこの橋をどこかで目にされた方も多いと思います。アヴェロン県ミヨ―近郊の渓谷にかかるこの橋は、地上からの高さが343m、全長2460m。バカンス時などに南仏へ下る道路の渋滞を解消するために作られた高速道路の橋です。2004年に開通しました。当時は景観を損ねるという理由でこの計画に反対する住民も多かったそうですが、完成した橋の姿は雄大で、徐々に人々に受け入れられていったようです。パリのエッフェル塔しかり、ルーブル美術館のガラス張りのピラミッドしかり…。そこに出来てしまえば、いずれはそれを含めた風景が当たり前になっていくのでしょう。

3)Poitou-Charantes :(ポワトゥ・シャラント地方)

 Festival de la bande dessinée d’Angoulème :(アングレーム国際漫画祭)
http://www.bdangouleme.com/446,angouleme-cite-des-festivals

フランスの南西に位置するこの地方は、古くからコニャックの産地として知られています。Angoulèmeの町の歴史は古く、ローマ時代にはシャラント川の水上貿易の要地として栄えていたようです。水と緑豊かなこの町を世界的に有名にしたのが、「アングレーム国際漫画祭」。1974年から開催が始まり、毎年1月末に3~4日、世界中の漫画が集まります。この期間に人口わずか5万人弱の町に20万人の人がやってきます。別名「漫画のカンヌ祭」ともいわれるほどです。今年初めに慰安婦問題をテーマにした漫画の展示が話題になったのはこのフェスティバルでのことでした。もうひとつの見どころは「ウォールペイント」。町中の建物の壁にもイラストが描かれていて、こちらは通年見ることができます。歴史的な街並みとポップな壁画アート、ちょっと首をかしげたくなりますが、サイトで見るとだまし絵のようなものもあり、なかなかおもしろそうです。こちらはCité de la Création(創造都市)というウォールペイントのアーティストたち(muralistes)の団体が統括しているそうです。

フランスを訪れる外国人観光客は年間8200万人。フランスは世界一の観光大国です。
古い建造物と豊かな自然が美しく調和し、何度訪れても変わらぬ美しさで迎えてくれる。そんなイメージのフランスですが、今回の2回にわたるロランスのアート散策では、歴史ある建物、芸術作品はもちろんのことながら、現代アートもそれらと肩を並べて、しっかり根付いていることを感じました。都会ばかりではなく、人里離れた寒村や大自然の中にまでアートが増殖しているという印象です。フランスのアートは本当に素晴らしい底力を持っていると再認識させられました。

P6120435 apres la conference

最後にロランスお手製の「アーモンドレモンケーキ」とお茶をいただきました。さっぱりしていておいしかったです。「前回のチョコレートケーキは失敗してふくらまなかったけれど、今日のケーキはもともとこんな風にペシャンコなのよ。」出来合いのものは買いたくないけれど、料理は余り好きというわけではない、というロランスですが、家族のためにも来客にもきちんと料理をするところは立派です。「クックパッド」のフランス版みたいなサイトからいつも「simple, facile(シンプル、簡単)」というものばかりを選んで作っているとか。それでも日本のようにデパートの地下でお惣菜を買ったり、出前をとったりせず頑張っています。偉い!!

P6120424  tasses de the & boites de theP6120426  gateau aux amandes et au citron

 

余りに素晴らしかったこの地方アート散策のツアー、秋には通訳付きで再登場いたします。
ぜひぜひこの感動をご一緒に!!ご期待ください。

P6120439  deco

 

 

アートサロン

アートサロン<Regarder la peinture autrement :違った視点で絵画を楽しむ>講座ご報告(2014年6月7日)

6月 13th, 2014
アートサロン<Regarder la peinture autrement :違った視点で絵画を楽しむ>講座ご報告(2014年6月7日) はコメントを受け付けていません

 

今回のアートサロンはIBSインターカルチャーの教室で、開かれました。講師はグラフィックデザイナーのダニエル。大学講義のように美術史Art salon 2014.06.07などの知識を学ぶのではなく、絵の前に立ってどのように絵を見るか、どんなところに注目したらその絵がもっとおもしろいものになるかを、絵画の中に入りこんでじっくり見ようというのが、ダニエルのサロンの趣旨です。たくさんの驚きと発見がありました。その中のいくつかをご報告いたします。

ダニエルがパリの美術学校の学生だったときは、たった一枚の絵画をなんと3か月もかけてじっくり勉強したそうです。ところが今日はわずか2時間少々の間に30点ほどの作品を見ることに!

絵画を楽しむための7つの視点とは:

1)Anatomie :(解剖学という意味ですが、ここでは「体つき」)

有名なダビデ像も作り手によってとても同一人物とは思えないような表現解釈があるものですね。ミケランジェロの作品は、筋肉質の雄々しい若者像ですが、帽子のような兜をかぶった「草食系男子」風ダビデ像(ドナテッロ作)もあります。

2)Physionomie : (顔つき)

肖像画の人物の描き方は画家によって様々ですが、その人物の内面を描写しようとしているところは共通しています。
ダヴィンチの「モナリザ」と同じく彼の作品「ジネヴラ・デ・ベンチ」を比べてみます。肖像画の人物は基本的に笑ったりしないものだそうです。ところがモナリザは微笑んでいます。しかも眉毛が抜かれています。当時このような様子の女性は娼婦によく見られたそうで、そのようなことから注文主に受け取られることなく、生涯ダヴィンチの手元に残ったという説。「ジネヴラ」のような肖像画が一般的であったとしたら確かに当時としては異様な肖像画だったのかもしれません。

ジネヴラ・デ・ベンチの肖像 1476-1478 ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントン)所蔵 

ジネヴラ・デ・ベンチの肖像 1476-1478
ナショナル・ギャラリー・オブ・アート
(ワシントン)所蔵

モナリザ 1503-15191 パリ ルーブル美術館所蔵

モナリザ 1503-1519
パリ ルーブル美術館所蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3)Espace :(空間)

絵画の中でとても重要な要素。風景画でも静物画でも空間が描かれます。物と物の間に作られる空間。遠近法によって作られる幾何学的な空間。通常肖像画の人物と鑑賞者の間の境界線のように描かれているparapet(欄干)をあえて人物の背後に描いたのが、「モナリザ」。モナリザと鑑賞者の間を隔てるものが取り払われ、モナリザはぐっと私達の側へ近づいてきます。

4) Texture :(テクスチャー)

絵画の中の金属、木などの材質をどのように描いているか。例えばフェルメール(Vermeer:フランス語ではヴェルメールと発音)の有名な「牛乳を注ぐ女」のパンを至近距離でよ~く見ると、無数の細かい点で描かれているのがわかります。印象派以前にすでに彼はこの技法を駆使しています。

5) Lumière : (光)

舞台のスポットライトと同じように絵画の中で際立たせたいものに光をあてる。影を使うことで光はよりドラマティックに対象を照らします。ルノワールの「Le Moulin de la Galette(ムーラン・ド・ガレット)」では、木漏れ日が光と影の斑点となって人々を照らしています。この光の斑点を描くことで実際に描かれていない木々の存在を鑑賞者に察知させます。これを hors  champ(オールシャン)と言います。

6)Temps :(時間)

一枚の絵の中に時間の流れを描きこんでいるのはティツィアーノの「ディアナとアクタイオン」。

狩猟の女神、ディアナがニンフたちと水浴びをしているところに、突然若い狩人アクタイオンが現れて、ディアナたちはパニックに。そして彼女の怒りに触れたアクティオンは鹿に変えられてしまうという神話を描いたもの。真っ先に気が付いたディアナ、左に並ぶニンフたちの事態の気づきの時間差が描かれ、さらに絵の上部には狩人が変えられてしまう鹿の頭部も描かれています。

7) Narration :(ナレーション)

絵の中で画家は何を語ろうとしているのか。歴史的な絵画であれば、その場面から全体のストーリーに思いをはせることができます。しかしまた、フェルメールの「絵画芸術(画家のアトリエ)」にいたっては、そのミステリアスな情景を読み解くことは容易ではありません。寓意を多く描いた画家だそうですから、きっとそれぞれに意味があることでしょう。画家のアトリエにしては豪華な大理石の床やシャンデリア、そのシャンデリアにはろうそくが一本も立てられていません。モデルの女性の持つ長いトランペットは、どうみても画家が製作中のキャンバスにはおさまりきらないサイズです。画面手前に描かれた厚くどっしりとしたカーテンは、まるで鑑賞者と画家のアトリエとの境界線のように見えます。このようにまさに「絵解き」のような楽しみ方もあるのですね。

絵画芸術 1666 美術史美術館 (ウィーン)所蔵

絵画芸術 1666
美術史美術館(ウィーン)所蔵

 

以上、ダニエルのプレゼンのほんの一部をご紹介いたしました。正統な技法で写実的に描かれていると思っていた絵が、実はどこかでデフォルメされている、という例をたくさん教えられました。
例えば、アングルの「オダリスク」。美しい背中が印象的ですが、確かにその長さは尋常ではありません。組んだ向こう側の足の位置も無理があります。ちらっと見える乳房もあり得ない位置に描かれています。メレンデスの「メロンと洋梨のある静物」も緻密な筆致で息をのむような美しさですが、テーブルに映し出された洋梨の黒い影は決して周りの他の物体と交わりません。まるで本物そっくりに描かれていると思う鑑賞者は、細かなところで実は裏切られているようです。美しさを追求するために現実をデフォルメして描く画家たち。しかしまた限りなく写真のように現実に忠実に風景を切り取るPhotorealismのRalph Goings(ラルフ・ゴーイングズ)の作品も衝撃的です。電灯の下のドーナッツの載った皿の影は、4層のグラデーションで描かれています。その観察眼とデッサン力、色使いといったあらゆる技を駆使して、写真の無機質な画像と寸分たがわない作品を作り出しています。写真だと思って眺めたものが実は油絵だとは…。絵画の前でこのようにだまされながら、またそれを楽しむのが絵画鑑賞なのかもしれません。

 

※Daniel Pizzoliは今回のプレゼンのために、メソッドについてはHector Obalk(芸術評論家)の作品を、歴史についてはDaniel Arasse(美術史家)の作品を参考にしています。

アートサロン

アートサロン「装飾コラージュ・カルトナージュ」:講座ご報告(2014年5月29日)

6月 3rd, 2014
アートサロン「装飾コラージュ・カルトナージュ」:講座ご報告(2014年5月29日) はコメントを受け付けていません

P5290425  a la terrace

いよいよソフィの最後のサロンになってしまいました。カード、額入りの絵と徐々に大きな作品へと進んできましたが、今回は箱に挑戦です。古くなって汚れた箱や、形やデザインが気に入っていて捨てられない箱などを、コラージュの技法で美しく変身させます。まずは広いテラスで冷たい飲み物をいただいて一息つきながら(今日は本当に猛暑!まだ5月末ですが、ソフィ宅へ到着したときは全員汗でヨレヨレに…)ソフィにカルトナージュのコラージュについて教えてもらいます。

― まず箱を選ぶ。(皆さん、それぞれに箱を持参されていましたが、ソフィもたくさん素敵な箱を用意してくれていました。)

― ベースになる紙を選ぶ。カラフルな包装紙、壁紙、銀箔、papier de soie(シルクペーパー)などというものもありました。

P5290430  materiaux 2P5290426  materiaux

 

 

 

 

 

―モチーフを選ぶ。おしゃれなファッション雑誌、英字新聞、美術展のパンフレット、カレンダー、ナプキン等々。いろいろなデザインのマスキングテープもお店が開けるくらい種類が豊富。

―今回はニス入りの糊(vernis-colle  )を使用。作品によってはニス(vernis )を最後にかける。

ニス入り糊

ニス入り糊

P5290439 vernis

ニス

※最初からしっかりと構想を練る必要はない。好きな色の紙とモチーフをいくつか選んだら、まずは貼ってみること。だんだんイメージがふくらんできて、最初に考えていたものとは全く違うものになることもある。これがコラージュのおもしろさ。

 

 

実際にソフィの作品をみせてもらいました。服飾で使われるディスプレイ用のボディーと背もたれのない丸いイス。捨てられているのを拾ってきれいな花柄に仕立てました。命を吹き込む作業です。

P5290432  oeuvres de Sophie 2

 

そして一斉に素材選びにとりかかります。どれにしようか、これも素敵、あれも悪くない…子供のようにあちこちひっくり返して、モチーフ探しに必死です。至福の時間!!

P5290431  choisir des materiauxP5290436  atelier de collage decoratif

3時間の予定が見事に4時間にオーバー。まるで禅の修行のように声もなく、ひとりひとりがマイワールドに浸り、4時間集中しました。

出来上がった作品です。

P5290443  oeuvre d'AyakaP5290444  oeuvre de Kazue

 P5290446  oeuvre de MisakoP5290445 oeuvre de Yuriko

 

 

 

 

P5290447  oeuvre de TomomiP5290448  oeuvre d'Akiko

 

 

 

 

 

ソフィには、童心にかえって無心に楽しむアートの素晴らしさを教わりました。このソフィのサロンに参加して触発され、ちぎり絵の世界で修業を始めた若い参加者の方もいらっしゃいます。そして今日参加された皆様は、家の中に転がっている箱を見る目が変わることでしょう。どんなものでもコラージュの素材になることから、今後ますます物が捨てられないという問題もありますが…。

最後に参加者からひと言ずつお別れとお礼のあいさつをソフィに送りました。ソフィは目に涙を浮かべて聞いていました。まるで10年来の友人のような気持ちに全員がなりました。

―ソフィ、これが最後じゃありません。私達はそのうちパリのソフィの家に押しかけて、セーヌ川に面したテラスでまたコラージュを教えてもらいP5290425  Sophieます。そしてルーブル美術館をソフィに案内してもらいます。それが実現したら本当に素敵です。この中の何人かのマダムたちは結構本気かもしれません。ソフィ、泣いている場合ではありません。千客万来、大忙しになりますよ。ご用心、ご用心。アート以上にソフィの素晴らしい人柄に魅了されて皆様毎回のように参加されました。

Merci, Sophie !(ありがとう、ソフィ!)Au revoir(さようなら)は言いません。A  très  bientôt !
(またじきに会いましょう!!)

★ ソフィのサイトからも本日のコラージュの様子がご覧いただけます。フランス帰国後にもこちらのサイトを覗いていただければ、ソフィの活動をオンタイムで追うことができます。

logo bdf

 

 

 

http://leszas.wordpress.com/2014/06/02/atelier-collage-cartonnage-adultes/

 

 

アートサロン

アートサロン:フランスを巡る – フランス地方のアート散策:講座ご報告(2014年4月24日)

5月 3rd, 2014
アートサロン:フランスを巡る – フランス地方のアート散策:講座ご報告(2014年4月24日) はコメントを受け付けていません

P4240372

少し急ぎ足で歩くと汗ばむくらいの初夏を思わせる陽気の一日。今日はアーティスト、ロランスのお宅で、フランス地方を巡りながら、その土地のアートを紹介してもらいます。大きなリビングの壁に赤を基調にしたロランスの大作が三点並んでいます。廊下にもトイレの中にも(!)作品が飾られているのをまずは拝見。ちょっとした現代アートの美術館のようです。リビングの窓の向こうには青山墓地の木々の緑が金色に輝いています。フカフカのソファに腰かけて、大画面のディスプレイからどんな映像が現れるのか待っている間の高揚感。本当に贅沢な時間です。この日のために準備していたロランスは、次から次へと紹介したいものが出てきてなかなか決めるのが大変だったと言っていますが、プレゼンを見れば納得です。準備に相当な時間を費やしたことでしょう。

 フランスではいくつかのdépartements(県)が集まってrégions(地方)を形成しています。(日本と同じですね。)この「県」という分け方は、なんとフランス革命の翌年、1790年に制定されたのだとか。

P4240377ロランスのご主人の出身地Alsace(アルザス)からスタートし、ロランスの故郷Provence(プロヴァンス)で締めくくる予定でしたが、白熱したプレゼンは2時間に及び、プロヴァンスが残ってしまいました。次回6月にじっくりプロヴァンスのアートについて教えてもらうことに。

以下ざっくりと巡った地方と取り上げたアートのいくつかをご紹介いたします。

― Alsace (アルザス地方):Cité de l’Automobile
車に余り興味のない女性でも楽しめる車の博物館。紡績工場の元オーナー、Schlumpf兄弟の弟Fritzが集めに集めた膨大な数の車が工場の跡地に収められている。自動車博物館としては世界第一位の規模。

http://citedelautomobile.com/fr/decouvrir

―Lorraine(ロレーヌ地方): Baccarat
手工業が盛んなこの地方で、特に注目すべきはクリスタルを製造するこの会社。クリスタルに初めて色づけしたのがBaccarat(バカラ)。早い時期からデザイナーを重用して、クリスタルのデザイン性を追求。2000年からはアクセサリーも手掛けている。日本人デザイナーの高田賢三も一時期ここで働いていた。

http://www.baccarat.jp/

―Champagne-Aldenne(シャンパーニュ地方アルデンヌ): Maison de Champagne
フランス第一の農業地域。特にブドウの栽培が盛んで、シャンパンの生産で有名。Dom Pérignon(ドン・ペリニョン)日本では「ドンペリ」と呼ばれ、バブルの象徴のようなアルコールだが、ドン・ペリニョンは修道士の名前で、彼が発酵しているワインを瓶詰にして放っておいたところ偶然出来上がったのがこのシャンパンだとか。アートとして取り上げたのは、Maison de Champagne(シャンパンハウス)の宣伝映像。建物に映像を映し出し、光と音を組み合わせて一大イベントに作り上げている。大きな建物の壁面に黄金色のシャンパンが洪水のように波打って流れる様は圧巻。

― Picardie (ピカルディ地方):Cathédrale  d’Amiens
P4240381フランス北部の地方。Amiens(アミアン)は中心的都市。この町のCathédrale d’Amiens(アミアン大聖堂)はフランス国内最大級のゴシック建築として有名。修復時、建てられた当初(13世紀)には正面入り口に色彩装飾が施されていた痕跡を発見、以降夜にはプロジェクターを使ってその当時の色鮮やかな姿を再現して、訪れる人々の目を楽しませている。

https://www.google.co.jp/search?q=cath%C3%A9drale+d’amiens&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=NbBfU-7yEM_k8AW6moLoCQ&ved=0CCkQsAQ&biw=1366&bih=673

 ―Nord-Pas-de-Calais(ノール・パ・ド・カレ地方):Dentelle de Calais
中心都市はLille(リール)。この地方はDentelle de Calais( カレのレース)が有名。まさに芸術作品。

https://www.google.co.jp/search?q=dentelle+de+calais&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=wbNfU8q2H4GB8gWowIGoAg&sqi=2&ved=0CCkQsAQ&biw=1366&bih=673

― Nord (ノール地方):Piscine de Roubaix
フランス北部の町、Roubaix(ルーベ)の美術館。この町の織物工場で働く労働者たちの健康のために1932年に建てられたプールを2001年に美術館にリニューアル。

http://www.roubaix-lapiscine.com/

 ― Normandie(ノルマンディ地方):Plage du débarquement
モンサンミシェルやジベルニーはよく知られているが、「史上最大の作戦」という映画の舞台となったノルマンディ海岸も忘れてはならない。

Tapisserie de Bayeux(バイユーのタペストリ)
同じくノルマンディ地方を代表するもの。タペストリはふつう織物だが、これは亜麻に毛糸で刺繍をほどこした全長70mもの大作。11世紀のフランスがイギリスを征服したときのことを描いている。人の服装、生活様式、動物、建物、木など当時の様子を知ることができる貴重な作品。

https://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%9A%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=VW1iU9bGH4m58gWLxYC4DQ&sqi=2&ved=0CDcQsAQ&biw=1366&bih=673

 ― Bretagne(ブルターニュ地方):Ecole de Pont Aven
フィラデルフィア派のアメリカ人がパリからこのブルターニュのポン・タヴァン村に多く移り住み、近代アートの先駆けとなったことから、ポン・タヴァン派と呼ばれるようになった。ポール・ゴーギャンも一時期ここに居を構えていた。

Pays de la Loire(ペイ・ド・ラ・ロワール地方):Voyage à Nantes
観光客誘致のためナント市が開催する通年のイベント。特に夏には町中いたるところでオブジェやイベントが見られ、一番のにぎわいとなる。

https://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%9A%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=VW1iU9bGH4m58gWLxYC4DQ&sqi=2&ved=0CDcQsAQ&biw=1366&bih=673#q=voyage+%C3%A0+Nantes&tbm=isch

Centre( サントル地方):Le château des Dames – Chenonceau
「貴婦人たちの城」と呼ばれるシュノンソー城。歴代の主はすべて女性。カトリーヌ・メディチもそのひとり。シェール川の上にまたがるように作られた美しい城。

http://www.chenonceau.com/

 ―Bourgogne(ブルゴーニュ地方): Le tour de France de Mérimée ; 
作家のメリメは、写真家としても功績を残した。フランス全土を回り、歴史的建造物の写真をとり、保存に大きく貢献した。910年に建てられたこの地の修道院も彼のおかげで取り壊しを免れた。

Franche-Comté(フランシュ・コンテ地方)
丘の上にLe Corbusier(ル・コルビュジエ)が建てたChapelle Notre-Dame-du-Haut(ノートルダムチャペル)は当時散々の評判の建物だった。今はその教会の下に、ピアノ氏の設計による修道院が建てられている。

http://fr.wikipedia.org/wiki/Chapelle_Notre-Dame-du-Haut

P4240375

最後にティータイム。いろいろな形のティーカップで、いただいたのはピーチティー。ロランスお手製のガトーショコラ。「真ん中がへこんでしまった!!」と残念がるロランスですが、ロランスのようにやさしくて、でも存在感のある美味しいケーキでございました。続きはまた6月に!!P4240380

 

アートサロン

アートサロン「画家の目、彫刻家の手」:講座ご報告(2014年3月27日)

3月 29th, 2014
アートサロン「画家の目、彫刻家の手」:講座ご報告(2014年3月27日) はコメントを受け付けていません

ブリヂストン美術館で今回は、ブリヂストン美術館コレクション展「画家の目、彫刻家の手」をソフィと一緒に鑑賞しました。美術館が所蔵する160点の作品の中には、ドガのパステル画「踊りの稽古場にて」などのように光に弱く劣化しやすいためほとんど公開されない貴重な作品も並び、エジプト時代の彫刻からバルビゾン派、印象派、ポスト印象派、そして20世紀へとアートの変遷をわかりやすく展示しています。限られた時間の中ですべて見ることはできませんので、ソフィが(彼女いわく)「非常に個人的嗜好で選んだ」作品鑑賞となりました。でもあとでそれがベストチョイスだったことがわかりました。

「絵と彫刻の間に違いがあるのは勿論だけど、共通点もたくさんあると思う。みんなは見つけられるかな?」
参加者一同、「エ~ッ!!」と顔を見合わせてしまいました。美術はちょっと苦手だけど何事も挑戦!と参加された方は、早くも後悔の念にとらわれ始めているようです。
「彫刻は3次元、絵画は2次元ですね。これは違う点よね。」(ハイ…)「今は見つけられなくても最後にはきっとわかると思うから、みんなで見て行きましょう。」(ハ、ハイ…)

「バルビゾン派って??」

西洋絵画の歴史では絵画に「格」の階層があり、「歴史的絵画」「肖像画」「風景」「静物」の順に尊ばれていたのだそうです。
「静物が最下層の絵画だなんて、日本画を知っている皆さんには驚きでしょう??」と、ソフィ。ほとんどが室内で描かれていた絵の中で、「風景」は歴史的絵画や肖像画の背景くらいの位置にしかなかったそうです。ところがバルビゾン派の画家たちは戸外へ飛び出し、自然の中で自然を描くという方法で「風景」を主題へと持ち上げたのです。当時、パリのような都会は産業革命の洗礼を受けて変貌し始めていて、人々が郊外へ自然へと目を向けていったこともバルビゾン派の誕生に拍車がかかったようです。
Barye(バリー)の小さな牛の彫刻を前にして、「この彫刻のどこが絵画と共通しているかしら?」と聞かれても、やはり顔を見合わせるだけの一同。「この牛の胴体は滑らかにつやつやしているけれど、台座を見て。彫りすじがたくさん残されていて、ザラザラしているでしょう?」(ハイ…)答えの出ない一同にソフィはにっこり笑って「次の部屋へ行ったら何かがわかるわよ。」と隣の部屋へ移動。

 「Touche :タッチ・筆使い」

ピエール・オーギュスト・ルノワール 少女1887年 石橋財団ブリヂストン美術館蔵

ピエール・オーギュスト・ルノワール
少女1887年
石橋財団ブリヂストン美術館蔵

そこは印象派の部屋でした。ルノワールの「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」の前でソフィは言います。「この女の子の服の感じはどう?触りたくなるようなタッチで描かれているでしょう?ルノワールのお父さんは仕立て屋で、お母さんはお針子だったので、ルノワールは小さいときから布に囲まれて育ったの。だから、絵の中でも布の感じをとても上手に表現しているでしょ?この絵はtouche caressanteですね。なでまわしたようなタッチで描かれているでしょ?」(フム、確かに…)
次に同じルノワールの作品「少女」。「この絵のタッチはちょっと違うわね。髪の毛の流れと同じように、背景も服も垂直な流れで描かれていると思いませんか?」(確かに、先のtouche caressanteとは違います…)そこでつながるのです。バリーの牛のツルツル、ザラザラのtouche(タッチ)とルノワールの筆のタッチが。これが共通点!!

 「三次元の絵」

Matisse(マティス)の「画室の裸婦」の前でソフィはこう説明します。「裸婦の赤く塗られた体と背景のグリーンを見て。寒色のグリーンは奥に引っ込んだ感じを出していて、暖色の赤は前に出てくる感じがあるわね。その上、裸婦の背の部分に白のラインを入れることで背景と裸婦の体に奥行がでているでしょう。これは立体的な絵画といえるでしょう。」(なるほど!)この絵画の立体的技法については、20世紀美術の部屋ではもっと大胆な試みの数々を見ることができます。ペイントをペースト状に塗るというより貼りつけたような質感のある絵。異質の画材を貼り合わせて穴をあけたり、ひっかいたり…確かに彫刻のタッチなのです。

「作家の目:Pomponの家鴨 」

Pompon(ポンポン)はロダンのアトリエで修業していました。彼にとってはロダンの作風をいかに越えるかがテーマだったことでしょう。彼の「家鴨」は小さな作品です。ロダンのゴツゴツとした風合いはなく、滑らかでシンプルなラインをもった美しいアヒルは、まるで魔法にかけられた「眠り姫の森」の生き物のように一瞬を切り取られて永遠に立ち尽くしているかのようです。ここでソフィから命題が出されました。1分間だけじっくりこのアヒルを見てくること。次に他の部屋へ行って、記憶だけを頼りにそのアヒルをデッサンすること。小さなアヒルの周りに大勢で群がって注視。他の見学者の方にちょっとご迷惑だったかもしれません。1分間だけなのでお許しを!
さて、このデッサンはどうなったでしょうか。おもしろいことに、十人十色。頭とくちばしが強調されているもの。しっぽばかりが目立つもの。首が妙に長いもの。足が長くて太いもの。とても同じアヒルをデッサンしたとは思えない出来です。そのデッサンを手にもう一度実物の家鴨を見に戻ると…。「エ~ッ、やだ~、似ても似つかない!!」「何を見てたんだろう!」と大騒ぎ。
ソフィいわく、「それがあなたの「目」なのよ。」何かを写生するとき、人の視点は千差万別。小さなアヒルだって、見る人によってはポイントがくちばしだったり、しっぽだったり違うのです。何を描くかは、画家の視点によるということを身をもって体験いたしました。
展覧会のテーマは「画家の目、彫刻家の手」ではありますが、ソフィのアトリエでは、「画家の目、彫刻家の目、画家の手、彫刻家の手」になりました。

最後にソフィが示したZadkine(ザツキン)の「Pomona(ポモナ)」が象徴的でした。首も手もない胴体だけの黒檀の彫刻ですが、その体には手が描かれているのです。立体と平面、絵画と彫刻の合体です。

今回取り上げた作品は以下のサイトでご覧になれます。

http://www.bridgestone-museum.gr.jp/collection/

ランチタイム美術館を出て、参加者全員とソフィ総勢9人は、高島屋そばのillyで、軽くランチをいただきながら、おしゃべりを楽しみました。帰国が決まったソフィの最後のサロンが5月に開かれるかもしれません。そのときはぜひまたご参加ください。セーヌ川近くのソフィの家にはテラスがあって、近い将来はそこでまたサロンを開こうという話まででました。ソフィが一言。「でもこのサロンは高いわよ。なにしろ飛行機でこなくちゃならないからね!!」

アートサロン