アートサロン「19世紀の画家という職業・後編」ご報告 2015年4月18日
今回は後編。アカデミズム絵画が忽然と消えてしまったその訳は? まずはアカデミズムのシステムについてのおさらい。 1665年にルイ14世がAcadémie Royale(アカデミー・ロワイヤル:王立アカデミー)を創設。デッサン力を最重要視した教育の中で、Prix de Rome(ローマ賞)というコンクールも作られました。これは1968年まで続きますが、この賞に輝いた画家の中で後世まで名をはせたのはIngres(アングル)だけ。フランス革命後も、ナポレオンによってAcadémie des Beaux Arts (アカデミー・デ・ボ・ザール)が設立され、このアカデミズムのシステムは継承されていきます。アカデミズム芸術では高度なデッサン力と構図力でギリシャ・ローマ風の美が追及されました。ナポレオンの時代には、政治的なプロパガンダのツールとしても利用されましたが。パトロンの発注によって絵を描いていた画家たちは、描く絵画によって階層分けされていきます。「売れっ子画家」になるための門戸も依然として狭いものでした。 William Bouguereau :Zénobie retrouvée par les bergers sur les bords de l’Araxe , 1850 (Prix de Rome で一位を獲得した作品。あらゆる線が内側にうなだれたカーブを描いて悲しみを強調。杖の曲線もそのひとつ。)
そんな美術界に変化をもたらしたのはインクとリトグラフ(石版印刷)の出現です。印刷技術の発達のおかげで、当時台頭してきたブルジョワジーたちが絵画市場の一大顧客となっていきます。キャンバスやチューブ入りの絵の具も出回るようになると、製作される絵画の数も膨大になりました。 (リトグラフの出現:大量の印刷が可能になり、一般市民にも手が届くようになる。)
レンタル絵画というのもこの時期に出現しています。かつての王侯貴族にかわって、ブルジョワや一般市民が買い手となったこの時期から画商が現れます。同時に批評家という職業も生まれます。彼らは展覧会などを多く開き、新しい視点から人々に絵画を紹介するようになりました。アンチ・アカデミズムの作品がもてはやされ始めます。今や画商や批評家の後ろ盾がなければ有名にはなれないという新しいシステムの前に、古典的なアカデミズムは次第に忘れ去られていきました。アカデミズムの多くの作品はアメリカへと渡って行き、かろうじて消滅の危機を逃れています。美術館からも美術書からも姿を消してしまったアカデミズムの絵画たちですが、その絵画の高い完成度や美しさを目にする機会に恵まれた今回のアートサロンで、アカデミズム絵画がまた見直される日があるかもしれないという思いを強くいたしました。この後は皆様にもサロンの時と同じようにアカデミズムの絵画をじっくり味わっていただきたいと思います。残念ながらここに載せられる数はほんのごく一部になってしまいますが、どうぞお楽しみください。アカデミズム絵画をみるとき知っておきたいのがジャンルの階層です。 絵画のジャンルのヒエラルキー: 絵画のテーマによって階級分けされていました。 1)歴史をテーマにした絵画:中でもAllégorique ―寓意的なテーマが最上位。その下に歴史、戦争などのテーマが並ぶ。 2)肖像画 3)風景画:その中でも海をテーマにしたものは格が上になる 4)動物画 5)静物画
William Bouguereau : L’aube , 1881 (夜明けの光を表す女性の優美なポーズ: 寓意画)
William Bouguereau : Humeur nocturne, 1882 (こちらは夜の闇をまとった女性像。ドガはこのブグローの絵画からbouguereauterという動詞を作った。「ブグローのような冷たい絵画を描く」という意味:寓意画)
Thomas Couture : Décadence de Rome , 1847 (典型的な triangle académique。三角形の構図はアカデミズム絵画の特徴。中央の彫像を頂点として左右対称の構図になっている。群像の頂点へと向かう曲線、直線にも注目:歴史画)
Alexandre Cabanel: La naissance de Vénus, 1863 (この絵はナポレオン3世によって買い上げられた。)
Alexandre Cabanel : Portrait de Napoléon Ⅲ, 1865 (同画家によるナポレオン3世の肖像画。)
Jeorges-Antoine Rochegrosse : Le chevalier aux fleurs, 1894 (ダニエルお気に入りの一枚。騎士の鎧の胸に風景が映っているのもおもしろい。)
Constant Troyon : En route pour le marché , 1859 (戸外の光と羊を連れて市場へと赴く農民の姿。テーマは日常生活へと移っていく。)
James Tissot : Japonaise au bain, 1864 (どうみても日本人ではないが、日本のものと思われる(?)品々に囲まれた女性像。後の印象派画家たちに与えた浮世絵の影響がここでも垣間見える。)
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