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アートサロン「画家の目、彫刻家の手」:講座ご報告(2014年3月27日)

2014年3月29日 土曜日

ブリヂストン美術館で今回は、ブリヂストン美術館コレクション展「画家の目、彫刻家の手」をソフィと一緒に鑑賞しました。美術館が所蔵する160点の作品の中には、ドガのパステル画「踊りの稽古場にて」などのように光に弱く劣化しやすいためほとんど公開されない貴重な作品も並び、エジプト時代の彫刻からバルビゾン派、印象派、ポスト印象派、そして20世紀へとアートの変遷をわかりやすく展示しています。限られた時間の中ですべて見ることはできませんので、ソフィが(彼女いわく)「非常に個人的嗜好で選んだ」作品鑑賞となりました。でもあとでそれがベストチョイスだったことがわかりました。

「絵と彫刻の間に違いがあるのは勿論だけど、共通点もたくさんあると思う。みんなは見つけられるかな?」
参加者一同、「エ~ッ!!」と顔を見合わせてしまいました。美術はちょっと苦手だけど何事も挑戦!と参加された方は、早くも後悔の念にとらわれ始めているようです。
「彫刻は3次元、絵画は2次元ですね。これは違う点よね。」(ハイ…)「今は見つけられなくても最後にはきっとわかると思うから、みんなで見て行きましょう。」(ハ、ハイ…)

「バルビゾン派って??」

西洋絵画の歴史では絵画に「格」の階層があり、「歴史的絵画」「肖像画」「風景」「静物」の順に尊ばれていたのだそうです。
「静物が最下層の絵画だなんて、日本画を知っている皆さんには驚きでしょう??」と、ソフィ。ほとんどが室内で描かれていた絵の中で、「風景」は歴史的絵画や肖像画の背景くらいの位置にしかなかったそうです。ところがバルビゾン派の画家たちは戸外へ飛び出し、自然の中で自然を描くという方法で「風景」を主題へと持ち上げたのです。当時、パリのような都会は産業革命の洗礼を受けて変貌し始めていて、人々が郊外へ自然へと目を向けていったこともバルビゾン派の誕生に拍車がかかったようです。
Barye(バリー)の小さな牛の彫刻を前にして、「この彫刻のどこが絵画と共通しているかしら?」と聞かれても、やはり顔を見合わせるだけの一同。「この牛の胴体は滑らかにつやつやしているけれど、台座を見て。彫りすじがたくさん残されていて、ザラザラしているでしょう?」(ハイ…)答えの出ない一同にソフィはにっこり笑って「次の部屋へ行ったら何かがわかるわよ。」と隣の部屋へ移動。

 「Touche :タッチ・筆使い」

ピエール・オーギュスト・ルノワール 少女1887年 石橋財団ブリヂストン美術館蔵

ピエール・オーギュスト・ルノワール
少女1887年
石橋財団ブリヂストン美術館蔵

そこは印象派の部屋でした。ルノワールの「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」の前でソフィは言います。「この女の子の服の感じはどう?触りたくなるようなタッチで描かれているでしょう?ルノワールのお父さんは仕立て屋で、お母さんはお針子だったので、ルノワールは小さいときから布に囲まれて育ったの。だから、絵の中でも布の感じをとても上手に表現しているでしょ?この絵はtouche caressanteですね。なでまわしたようなタッチで描かれているでしょ?」(フム、確かに…)
次に同じルノワールの作品「少女」。「この絵のタッチはちょっと違うわね。髪の毛の流れと同じように、背景も服も垂直な流れで描かれていると思いませんか?」(確かに、先のtouche caressanteとは違います…)そこでつながるのです。バリーの牛のツルツル、ザラザラのtouche(タッチ)とルノワールの筆のタッチが。これが共通点!!

 「三次元の絵」

Matisse(マティス)の「画室の裸婦」の前でソフィはこう説明します。「裸婦の赤く塗られた体と背景のグリーンを見て。寒色のグリーンは奥に引っ込んだ感じを出していて、暖色の赤は前に出てくる感じがあるわね。その上、裸婦の背の部分に白のラインを入れることで背景と裸婦の体に奥行がでているでしょう。これは立体的な絵画といえるでしょう。」(なるほど!)この絵画の立体的技法については、20世紀美術の部屋ではもっと大胆な試みの数々を見ることができます。ペイントをペースト状に塗るというより貼りつけたような質感のある絵。異質の画材を貼り合わせて穴をあけたり、ひっかいたり…確かに彫刻のタッチなのです。

「作家の目:Pomponの家鴨 」

Pompon(ポンポン)はロダンのアトリエで修業していました。彼にとってはロダンの作風をいかに越えるかがテーマだったことでしょう。彼の「家鴨」は小さな作品です。ロダンのゴツゴツとした風合いはなく、滑らかでシンプルなラインをもった美しいアヒルは、まるで魔法にかけられた「眠り姫の森」の生き物のように一瞬を切り取られて永遠に立ち尽くしているかのようです。ここでソフィから命題が出されました。1分間だけじっくりこのアヒルを見てくること。次に他の部屋へ行って、記憶だけを頼りにそのアヒルをデッサンすること。小さなアヒルの周りに大勢で群がって注視。他の見学者の方にちょっとご迷惑だったかもしれません。1分間だけなのでお許しを!
さて、このデッサンはどうなったでしょうか。おもしろいことに、十人十色。頭とくちばしが強調されているもの。しっぽばかりが目立つもの。首が妙に長いもの。足が長くて太いもの。とても同じアヒルをデッサンしたとは思えない出来です。そのデッサンを手にもう一度実物の家鴨を見に戻ると…。「エ~ッ、やだ~、似ても似つかない!!」「何を見てたんだろう!」と大騒ぎ。
ソフィいわく、「それがあなたの「目」なのよ。」何かを写生するとき、人の視点は千差万別。小さなアヒルだって、見る人によってはポイントがくちばしだったり、しっぽだったり違うのです。何を描くかは、画家の視点によるということを身をもって体験いたしました。
展覧会のテーマは「画家の目、彫刻家の手」ではありますが、ソフィのアトリエでは、「画家の目、彫刻家の目、画家の手、彫刻家の手」になりました。

最後にソフィが示したZadkine(ザツキン)の「Pomona(ポモナ)」が象徴的でした。首も手もない胴体だけの黒檀の彫刻ですが、その体には手が描かれているのです。立体と平面、絵画と彫刻の合体です。

今回取り上げた作品は以下のサイトでご覧になれます。

http://www.bridgestone-museum.gr.jp/collection/

ランチタイム美術館を出て、参加者全員とソフィ総勢9人は、高島屋そばのillyで、軽くランチをいただきながら、おしゃべりを楽しみました。帰国が決まったソフィの最後のサロンが5月に開かれるかもしれません。そのときはぜひまたご参加ください。セーヌ川近くのソフィの家にはテラスがあって、近い将来はそこでまたサロンを開こうという話まででました。ソフィが一言。「でもこのサロンは高いわよ。なにしろ飛行機でこなくちゃならないからね!!」

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