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アートサロン(茶箱):講座ご報告(2013年6月18日)

2013年6月27日 木曜日

今日、茶箱を教えてくれるのはイングリッド。静かな住宅街の一軒家 - 正確にはセミデタッチタイプの戸建てとでもいいましょうか。門扉は二つ。建物の右にイングリッドの家の玄関があり、左手には上に上がる階段があり、他の方の住居になっているようです。しかし、イングリッドの家にも2階があるようですので、建物の構造がいまいちよくわかりませんが…。代々伝えられてきた18世紀の重厚な家具の並んだリビングから2段ほど下がったところが食堂になっていて、今日はそこで茶箱を教えてもらいます。食堂の奥の壁の掛け時計がおもしろい。直径50㎝はあろうかという大きな時計はフランス製だそうですが、太くていかにも重そうな鉄の針が時を刻々と刻んでいます。でもイングリッドいわく、「針が下へおりてくるときは、上がるときよりストンと落ちてくる感じ」なんだそうです。その時計の左右には、日本の浮世絵が飾られています。右は誰の作かわかりませんが、芸妓が料亭かどこかの玄関にたっている図、左は琴の前になよっと座った女性を描いた上村松園の作品。日仏文化融合の壁面です。

さて、本日のサロンでは5Kという小さなサイズの茶箱に和紙を貼っていきます。和紙の柄にもよりますが、だいたい60㎝×90㎝1枚でフタと本体をカバーできるようです。ただし本体上部のフタを受ける突出部分は他の単色和紙で覆います。工程は次のように進みます。
1)フタ部分の寸法を測り、それに合わせて和紙を切り出します。ポイントは和紙を実寸より1㎝弱多めにのりしろとしてカットすること。
※本日は時間の関係で省きましたが、和紙を貼る前にまず茶箱全体を白のペイントで塗って乾かせておくと和紙に茶箱の木の目地が浮き出ないのでより美しく仕上がるそうです。
2)フタの表面にまんべんなく糊(木工用の白い糊を水少々でのばしたもの)を大きな刷毛で塗っていきます。塗り残しがないようにいろいろな角度から確認します。和紙をかぶせて、布で中央から外側へと空気を抜いて表面が滑らかになるようにします。フタの側面は長い面をまず対称に糊を塗って和紙をかぶせ、同様に布で空気を抜きます。次に横の短い側面、2面も同様にして和紙を貼りつけます。

3)本体の突起部分に使用する無地の和紙(本体に貼る和紙の色に調和するような色を一色選びます。)の寸法をはかり、糊を直接木の部分に塗って、和紙を貼っていきます。このときもフタと同様、長い側面をまず2面、次に短い面を2面貼っていきます。

4)本体側面の寸法を測り、和紙をカットします。今回は2面を一続きに切り出し、もう1面を別途カットしました。ふたのかぶさる部分の和紙も忘れずにカットしておきます。さらに本体底部分は、実寸より数ミリ小さ目にカットしておきます。
5)長い幅の側面から糊付けし、和紙を順番に貼っていきます。茶箱の和紙貼り付けで最も技術を要するのは、角の処理です。余った角の部分はまず垂直に切り込みを入れ、片方を斜め切りにして厚みをなくします。側面に和紙を貼る際注意するのは、フタの柄行との連続性を考慮して位置を決めることです。よく見ると、柄のうねりの方向があったり、微妙な色の連続性などがあるので、その流れに合わせて柄行を配すとすっきりします。最後に底を貼って完成です。
6)サロンでの作業はここまでですが、1日糊を乾かせてから、ニスを3度ほどかけて完成させます。
糊が乾ききらないうちに、紙の上などに置いておくと、和紙がはがれてしまったりします。乾かすときは出来るだけ底部分を床から離しておくことをお勧めします。はがれてしまった部分は同じ和紙の端切れで補正して、上からニスをかければほとんど目立たなくなります。


ここまでの工程は、途中ではさんだランチの時間を除けば、およそ3時間半くらいで終了すると思います。ランチには、イングリッドがアペリティフのチーズ、アントレのサーモンマリネ、トマトタルトまで用意していてくれました。さすがにワインのおすすめは丁重にお断りいたしましたが…。タルトの生地は、小麦粉とオリーブオイル、水、塩少々、お好みのハーブ(本日はローズマリー)を加えてこねあわせてそのまま型にのばすだけという超簡単レシピーでしたが、バターも卵も入らないとてもヘルシーな生地です。
本帰国を間近に控えたイングリッドですが、食堂を作業用にきちんとしつらえ、しかも手作りのタルトでもてなす、というフランスのおもてなしの心を今日もまた学びました。心も胃袋も「わしづかみ」にされたよき一日をイングリッドに心から感謝。Bon retour !

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